人口123万人の岩手県で新型コロナウイルスの感染者がいまだにゼロの理由

 そもそも新型コロナウイルスは、いかにして生まれたか?

 地球の生物は現在、大きく2つのグループに分かれる。1つは、人を含む動物や植物、カビなどの真核生物。2つ目が原核生物と呼ばれ、アーキア古細菌)とバクテリア真正細菌)が含まれる。原核生物は核(体の設計図であるDNAをしまっておく部屋)やミトコンドリアなどを持たない単純な構造の微生物である(生物ではないという説もある)。核を持たないが、DNAはある程度まとまって細胞の中にあり、これは核様体と呼ばれる。ミトコンドリアは私たちの体をつくる細胞の中におり、酸素を使ってたくさんのエネルギーを作り出す。アーキアは80℃以上の高温や20%以上の高塩分、強酸性といった過酷な極限環境で見つかるが、土壌や海水などにも広く生息する。

二十数億年前、光合成をするバクテリア(シアノバクテリア)が登場し、地球の酸素濃度が上昇してきた。そこで、無酸素で生きてきたアーキアの一部は生き延びるために酸素呼吸ができるバクテリアと共生の道を選び、上昇する酸素濃度に適応した。触手のような突起で絡めとられたバクテリアはやがてミトコンドリアに変わり、真核生物に進化した。が、すべてのバクテリアミトコンドリアに変わったのではなく、酸素呼吸ができるバクテリアのままで残り、アーキアと共生してきた。長い間にバクテリアと共生するアーキアが動物などに住みつき、ウイルスに変異した可能性がある。

 ウイルスとは、細菌の50分の1程度の大きさで、とても小さく、自分で細胞を持たない。ウイルスには細胞がないので、他の細胞に入り込んで生きていく。人の体にウイルスが侵入すると、人の細胞の中に入って自分のコピーを作らせ、細胞が破裂してたくさんのウイルスが飛び出し、ほかの細胞に入り込む。このようにして、ウイルスは増殖していく。なお、コピーを作る時にコピー機能が脆弱なため、違った型のウイルスを作る可能性がある。

ウイルスは遺伝情報を保存する物質の種類によりDNAウイルスやRNAウイルスに分けられる。コロナウイルスは後者の仲間である。コロナウイルスは数十種以上の種類があり、人のほかに犬や猫、豚などに感染するタイプもある。人に感染するウイルスは新型ウイルスを含めて7種あり、普通の風邪を起こす4種のウイルスと03年に流行した重症急性呼吸器症候群SARS)、12年の中東呼吸器症候群(MERS)のウイルスが含まれる。これまでに判明している他のコロナウイルスの遺伝子配列情報を比較することで、新型コロナウイルスはコウモリに由来することが分かった。さらにコウモリから人へ至るまでに希少な哺乳類のセンザンコウなどが中間宿主になった可能性も指摘されている。元宿主から中間宿主(複数の可能性もある)を経ている間にウイルスに変異したアーキアに突然変異が起こった。この時に酸素呼吸ができるバクテリアとの共生関係が崩れ、バクテリアから酸素をもらえなくなった。遠い昔のアーキアと同じような酸素に飢えた変異したアーキアが生まれてしまった。新型コロナウイルス(以後、単にウイルスと表記)の誕生である。

このウイルスには、鉄に弱いであろうというもう一つの特徴がある。米疾病対策センターと2大学の研究チームがウイルスの生存期間を発表した。それによると、空気中:3時間、銅の表面:4時間、ボール紙の表面:24時間、プラスチックの表面:2~3日、ステンレスの表面:2~3日である。元素の周期表において鉄は銅や亜鉛と同じグループに属し、元素配列上、銅の3つ前に位置する。鉄の表面では、ウイルスは銅に比べてもっと短い生存期間であろう。

このような2つの特徴を持つウイルスが人の細胞の中に入ると細胞は破壊される。細胞の中には私たちを含む真核生物にはなくてはならないミトコンドリアが働いている。ミトコンドリアの主な働きは2つある。一つは酸素を使ってエネルギーをたくさん作ること。私たちは体を動かしたり、食べ物を消化したり、いろんな事にエネルギーを使っているが、そのエネルギーをミトコンドリアは作っている(エネルギー工場)。もう一つが「鉄―硫黄クラスター」を作ること(鉄―硫黄クラスター工場)。鉄―硫黄クラスターというのは、細胞の中で働くいろいろなタンパク質に必要なもので、これがないとそうしたタンパク質がうまく働けず、細胞も生きていくことができない。そんな鉄―硫黄クラスターを作る装置はミトコンドリアの中にしか存在しない。細胞の中に入ったウイルスは、酸素がほしいので酸素を大量に使うエネルギー工場を破壊する。また、鉄がある鉄―硫黄クラスター工場も破壊し、自分のコピーを作り、増殖していく。ウイルスが多くなるとウイルスによる酸素消費も多くなり、人の体は次第に酸欠状態になる。破壊された細胞は血液中で大量になると血栓になる可能性もある。

この酸欠状態を解消するために血液中に赤血球が作られる。赤血球の中には体内の各組織に酸素を供給する大切な役割を担っているヘモグロビンが存在する。ヘモグロビンはタンパク質の一種で主に鉄を含む「ヘム」とタンパク質でできている「グロビン」からできている。このうち「ヘム」は酸素と結びつく力が強く、全身に酸素をいきわたらせる。

鉄には大きく分けて2種類ある。「二価鉄(ヘム鉄) / Fe2+」と「三価鉄(非ヘム鉄) / Fe3+」という鉄で、二価鉄は三価鉄に比べて6~7倍も身体に吸収されやすい。二価鉄は動物性の食品に多く、摂取するとそのまま吸収されるのに対して、三価鉄は植物性の食品に多く含まれ、吸収されるにはビタミンCや消化酵素によって二価鉄に還元されてから体内へ吸収される。この鉄は普通、食物から摂取するもので、主に十二指腸で吸収され、そのあと骨髄へ運ばれ、ヘモグロビンを作る。こうしてつくられたヘモグロビンは、肺の中で酸素と結合する形で血液中に酸素を取り入れ、各組織へ運搬し、受け取った組織は、これをエネルギー源として利用している。また、利用された後は炭酸ガスが生じるが、それを肺へ運ぶのもヘモグロビンの役目である。こうした一連の働きは“ガス交換”と呼ばれ、鉄は人が生きていくためには欠かせないものである。

鉄の働きとしては、・ヘモグロビンを生成する、・血液の中の酸素を筋肉中に取り入れる、・体の成長を促す、・美肌に働く、・感染症などの病気に対する抵抗力をつける、などである。

私たち成人の体内には、男性で3〜3.5g、女性では2〜2.5gの鉄があるが、そのうちの約60%は、ヘモグロビンを作るために使われる鉄として血液中に存在している。残り約40%の鉄は、ヘモグロビンを作るのに当面は必要でないことから、肝臓や脾臓などに“貯蔵鉄”として蓄えられている。何らかの理由でヘモグロビンをつくる鉄が不足すると、まずこの貯蔵鉄が使われ始める。それでも足りない時は“血清中の鉄”が使われ、さらに足りない場合は“組織鉄”までも使われるようになる。このように体内の鉄が不足するということは、すなわちヘモグロビンをつくる材料が減ってしまうということで、当然、ヘモグロビンはうまく作られなくなり、その量も減少していく。そうなると、全身の組織や臓器に酸素が行き渡らなくなり、体内がいわば酸欠状態になってしまう。ウイルスに感染し、ウイルスの増殖が進むと、感染者の体はやがてこの状態になり、血中酸素濃度を測定すると、異常な数値となっており、症状は、いわゆる鉄欠乏性貧血という病気によく似ている。なお、ウイルスは、赤血球は酸素を供給してくれるし、ヘモグロビンは嫌いな鉄で、破壊するとその鉄で寿命が縮められてしまうから、破壊はしない。

以上、前置きが長くなってしまったが、命題“なぜ、岩手県には感染者がいないのか”に移ろう。

 その答えは、岩手県民が平安時代から日常的に使っている南部鉄器にある。南部鉄器は湧出する鉄の内80~95%が吸収されやすい二価鉄(ヘム鉄)となっており、継続的な使用で、常に体の中の鉄が十分である状態になっている。ウイルスが岩手県民の体内に入ってきても、二価鉄(ヘム鉄)で死滅させているのとヘモグロビンを必要な時に必要な量を作れる体質になっている。

これがいまだに感染者がゼロの理由の一つであろう。

ウイルスのワクチンや治療薬は、“ヘム鉄”がキーワードかもしれない。初期の感染者にヘム鉄を投与することによりある程度検証できる。

これは余談であるが、強烈なだるさ(倦怠感)や体の重さに悩まされていた妊婦が南部鉄瓶で毎日お湯を沸かし、麦茶のティーパックの入ったティーポットにお湯を移して冷蔵庫に入れておき、2日間飲んだだけで、これらの不快な症状は全く消えていたとの話がある。ヘム鉄の威力である。

南部鉄器製品としては、鉄瓶や急須の他にフライパンや鍋などのキッチン用品ばかりでなく、風鈴、文鎮や香炉などの日用品まである。例えば、鍋一つとっても岩手県の伝統的な食文化に応じて、万能鍋、ふる里鍋、すき焼き鍋やジンギスカン鍋など多種があり、いかに食文化に溶け込んでいるかが分かる。料理の際に鍋から湧出する良質なヘム鉄が知らず知らずのうちに体内に蓄積されているのである。伝統的工芸品として伝統に磨かれながら生み出された多種多様な南部鉄器製品は、常に岩手県民の生活と共にある。時代が変わっても色あせない斬新なデザインや機能性ゆえに、岩手県民は元より国内だけでなく欧米など海外へも輸出され愛用されている。

 

岩手県でのウイルスに対する検査および相談状況は岩手県のホームページによると、以下である。

・遺伝子検査(PCR検査)状況は、602件(5月24日8時00分現在)で全て陰性。

  行政検査件数:436件、民間検査件数:166件

・[帰国者・接触者相談センター(主に症状がある方からの受診等に関する相談)]の受付件数

(2月8日~5月21日までの累計)は、7,915件

(コールセンター:288、各保健所:7,627件(県庁医療政策室、盛岡市保健所を含む)、

・[一般相談(新型コロナウイルス感染症に関する疑問や心配事がある方からの相談)]の受付件数(2月8日~5月21日までの累計)は、5,677件

(コールセンター:185件、各保健所:5,492件(県庁医療政策室、盛岡市保健所を含む)

となっており、たいへんきめ細かな対処もされていることが分かる。

 

 このような対処と岩手県民の文化と体質により感染者がいまだにゼロの奇跡を成し遂げているのであろう。